元カノのアカウントを、まだ開いてしまう
幸せそうなのが嬉しいのか、嫌なのか、自分でもうまく分からない。
土曜の夜、一人で家でハイボールを2缶飲んだあと、布団の中で元カノのInstagramをまた開いた。別れてから1年。ブロックもされてないし、鍵もかかっていない。投稿だけが普通に流れてくる。
一番上に上がっていたのは、湘南らしき海で撮られた写真だった。隣に男が映っていて、別れる直前に彼女が浮気していた相手と同じ顔かどうかは、もう判別がつかない。ただ二人とも、ちゃんと笑っていた。
僕と付き合っていた最後の半年、彼女があんな顔で笑っていた記憶はほとんど残っていない。一緒にいるとき彼女は大体スマホを触っていたし、僕が話しかけてもうんうんと短く返すだけの時期が続いていた。あの時、既に気持ちは外を向いていたんだと思う。
彼女とは2年半前にマッチングアプリで出会った。最初、向こうには彼氏がいて、たまに会うだけの関係が半年続いた。僕は本気になってしまって「その人と別れてほしい」と何度か言った。最終的に彼女はその人と別れて、僕と付き合うことになった。
付き合ってから1年。最後の半年、彼女に別の男ができていることを僕は薄々気づいていた。帰りが遅い夜、スマホの通知を隠す仕草、妙に明るくなった服装。全部、二人目として始まった時の僕に彼女が見せた挙動と同じだった。
でも、確信できたあの夜、僕は彼女を問い詰めなかった。怒鳴ることも、泣かせることもしなかった。ただ「もう違う人の方がいいなら、そう言ってほしい」とだけ送って、返信を1週間待った。来なかったので、僕からブロックもせずLINEを閉じた。
別れた後しばらくは、彼女を恨んでいると思っていた。でも最近は、もう少し正確に自分の感情を名付けられるようになってきた。
僕が恨んでいるのは、彼女が別の男と幸せそうに笑っていることじゃない。彼女が僕といた期間だけ、あの笑い方を僕に見せなかったことだ。
2年半前、最初に会った頃の彼女と、今湘南で笑っている彼女は、別人に近い。あの頃の彼女を笑わせていたのは僕じゃなくて、当時、彼女に彼氏がいたという「誰かから奪ってる」ドキドキの方だったのかもしれない。
ブラウザを閉じる前に、もう一度写真に戻った。今の彼氏と映っている彼女の顔の方が、明らかに綺麗だった。それを綺麗だと素直に思えた自分のことは、そんなに嫌いじゃない。
ただ、その綺麗さを僕の隣で一度も引き出せなかった事実だけが、まだ少し苦しい。
スマホを伏せて電気を消す。冷蔵庫の音が妙にうるさい夜だった。
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