好きな仕事で稼ぎたい、の順番が逆になった話
好きだから始めたはずなのに、続けるために、好きじゃないことをしている。
堅い勤めを辞めて独立してから、4年が経った。最初の2年は、自分がやりたいと思える案件だけを選んでいた。断った案件の数の方が、受けた案件より多かったと思う。単価も高くて、毎日がちゃんと面白かった。
3年目に入った頃から、少しずつ比率が逆転し始めた。「生活のための仕事」と「やりたい仕事」の境界が曖昧になっていった。気づいたら週の大半を、正直どうでもいいと思える案件に使っている。単価はそっちの方が安定しているから、減らす踏ん切りがなかなかつかない。
帰りの電車でスマホを開いても、SNSをただ眺めるだけで何も浮かばなくなっていた。以前だったら電車の中で新しい案件の構想を書き出していたような時間に、今はただ流れてくるショート動画を意味もなく眺めている。
頭が疲れているだけ、という話ではない気がする。「好き」で始めたはずなのに、好きだったはずのものが何だったかうまく思い出せなくなっている。独立した理由を、昔なら3秒で答えられた。今は少し言葉を探している間があると思う。
先月、地元のバスケ部で一緒だった友人に「最近、楽しい?」と居酒屋で聞かれた。ハイボールを飲みながら「まあ、稼げてはいる」と答えた。その瞬間、自分の言葉のつまらなさに少しゾッとした。
稼げている、というのは質問の答えになっていない。友人はそれ以上聞かなかったし、話題はすぐに別のところに移った。でもその夜、家に帰ってから鏡の前で少し立ち尽くした。
好きなことを仕事にしない方がよかった、とは思わない。ただ「好きなだけで続けられる」と信じていた頃の自分は、ずいぶん甘かったと思う。あの頃の自分を今の自分が笑えるかというと、笑えない。そっちの方が本物だった気がする。
独立したての頃は、案件の金額より「その仕事を誰とやるか」の方を気にしていた。今はまず金額の桁を見てから、相手のことを後から調べている。順番が逆になっているのは自分でも分かっている。分かっていても戻れない。
今は自分に「ちゃんと稼いでから、好きなことに戻ればいい」と言い聞かせている。この言い訳が一番長く続く言い訳になることも、うすうす分かっている。
それでも朝になれば、またメールを開いてどうでもいい案件の見積もりを返信している。やめる決心も戻る踏ん切りもつかないまま、毎日が過ぎていく。
冷蔵庫に、先週の残りのハイボールの缶がまだ一本残っている。今夜飲むか明日にするかも決められないまま、部屋の電気を消している。
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