零質問箱

寝てない週の自分は、本当の僕じゃない、と思いたい

3日寝ていないだけで、世界が少し歪んで見える。

納期前の1週間は、別の人間になる。

3日連続で3時間睡眠が続くと、人の言葉がうまく入ってこなくなる。画面の文字は読める。でも、文字の裏側にある相手の気持ちをくみ取る余裕が、頭の中に物理的に残っていない。

バスケ部時代の友人から「最近どう?」とLINEが来ても、ありがとうの2文字を打つ気力が出ない。既読だけつけて1日、2日経ち、気づいたら返信するタイミングを逃している。向こうも特に気にしていないだろうけど、「気にしてないだろうな」と思っていること自体が、疲れている証拠だった。

打ち合わせで、普段なら流せる相手の一言に妙にカッとなる。「ここ、もう一回考え直してもらえますか」みたいな普通のリクエストに、心臓だけが妙に早く動く。顔には出さない。その夜、コンビニで店員の対応が雑に感じて、レジで無言を貫いた自分の顔を後からガラスで見て、ぞっとした。

これは本当の僕じゃない、と思うことでなんとか乗り切ろうとする。3日寝れば、また「普通の僕」に戻る。そう自分に言い聞かせる。

でも、寝てない時に出てくる自分も、たぶん僕だ。普段ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、余裕があるから蓋ができているだけで。

余裕がない時の自分こそが、本物に近い。それを見たくないから、人はみんな眠らないようにしてるんじゃないか、と最近ぼんやり思う。眠らなければ疲れ切った自分の姿を、自分で凝視する時間が物理的に減る。

土曜の午後、納期が明けて、ようやく3時間じゃなくてちゃんと8時間眠れた日があった。起きたら昼過ぎだった。洗面所で顔を洗いながら、鏡の中の自分の顔を久しぶりにまっすぐ見た。

その顔は「普通の僕」のはずだった。でも、平日3日間コンビニの店員に無言を貫いていた男の顔と、あまり変わらなかった。

余裕があるとき、僕は「人に優しい」と自分を思っている。でも、その優しさは余裕という足場がなくなった瞬間にすぐ崩れる。崩れた後の自分の顔を、僕はあまり好きじゃない。

寝てないせいだ、と言い訳している限り、僕は本当の自分と向き合わずに済む。納期はそういう意味で、少し便利な言い訳でもある。

ベッドに戻って、もう一回寝直すことにした。土曜の昼の光が、カーテン越しに少し強かった。目を閉じる前、冷蔵庫の中にまだハイボールが残っていたことを思い出したけど、起き上がる気力までは戻ってこなかった。

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