零質問箱
自己

バイクを売りに行って、歩いて帰った日

初期資金を自分で作ると決めた日、処分するものの中にバイクも入れた。最後に湾岸線を走って、そのままショップに降りた。

バイクを売ったのは、1年くらい前だった。起業を決めた日に、処分するものの中に一緒に入れた。理由ははっきりしていて、初期資金を自分で作ると決めていたからだ。手元で現金に化けるものから順番に捌いていく中で、バイクが一番最初だった。

アメリカン系の中古だった。社会人になって、現金で買えるタイミングが来た時に手に入れたものだ。

その朝、いつもより早く起きて鍵を回した。ショップに直行せず、一度湾岸線に出た。平日の朝の早い時間で、車は少なかった。ただ普通に走った。

1時間ほど走って、ショップの方へ降りた。

ショップに着いて、カウンターで書類を書いた。整備士の人が書類を見ながらもう一度エンジンをかけていた。

査定の間、店内を歩いて並んでいる他のバイクを見ていた。良さそうなのが何台かあった。次に買うならこういうタイプもありだな、と頭のどこかで値段を見ていた。自分のバイクのことは、もうあまり見なかった。

鍵を渡して、書類にサインをした。50万円を受け取って、店を出た。駐車場の端に、さっきまで自分が乗っていたバイクが止まっていた。近づいて、タンクのあたりを一回だけ撫でた。それで終わりにして、歩き出した。

駅まで歩いて、電車に乗った。最寄り駅で降りて、また歩いて部屋に戻った。封筒を机の上に置いて、そのまま別の作業に移った。

売ったこと自体に後悔はない。資金を作るために売った。順番的にもバイクから売るのが妥当だった。

もう1年近く経つ。それでも街でアメリカン系のバイクを見かけると、乗りたくなる。この前コナンの最新作を観たあとも、しばらくその気が戻ってきていた。

後ろに元カノを乗せて走った日もあったし、友達何人かでツーリングに出た週末もあった。思い出はたくさんある。

手放しても、好きだった事実までは現金化できない。そこは残る。乗りたくなる、という形で時々勝手に顔を出してくる。

もう一度買い直すかと言われれば、今は違う。ただ、乗りたくならない日が来るかというと、それも多分違う。

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