意味のない夜
何もなかった、という夜も、何かではある。
ベッドに入って電気を消した。
天井の常夜灯だけが、ぼんやり光っている。
時計は午前0時半を過ぎたところだった。
今日、何をしたか思い出せない。
朝起きてコーヒーを淹れた。午前中にメールを3本返した。
昼は家でラーメンを作って食べた。袋麺にネギを足しただけのやつだった。
午後は打ち合わせを1本オンラインでこなした。夕方、洗濯をした。夜は冷蔵庫の残り物で済ませた。
書き出せば、ちゃんと1日は埋まっている。
何もしてないわけじゃない。
それなのにベッドに入った瞬間、今日という1日が手元に残っていない感じがした。
楽しかったわけでもない。
嫌だったわけでもない。
起伏が1つも思い出せないというのが、一番近い。
「意味のない1日」と呼ぶには疲れすぎていた。
意味のある1日にしては静かすぎた。
こういう日は意外と多い。月の半分くらいは、たぶんこういう日だ。
でも普段は、寝る瞬間に意識が切れる。
そのまま朝になるから、自分がどんな1日を過ごしたかを振り返る余裕がない。
今夜だけ、なぜか天井を見ている。
もっと若い頃は、「無駄な1日を過ごした」と思うと罪悪感が強かった。
24時間の使い方をちゃんと設計しないといけないと、どこかで思い込んでいた。
独立したての頃は特にそうだった。
今は、あの頃ほど罪悪感は出ない。
年齢のせいかもしれない。
自分の生活を成り立たせる金を、毎月ちゃんと稼げるようになったからかもしれない。
ただ、罪悪感が出ない代わりに、「なかった1日」の寂しさだけがうすく残るようになった。
罪悪感は、少なくとも熱のある感情だった。
寂しさは、温度が低い。
どっちが辛いかは、日によって違う。
何もなかった夜と呼ぶには、こうして覚えていようとしている時点で、何かではある。
でもそれを何と呼べばいいのか、今夜はまだ分からないままだった。
枕元のスマホを確認する。通知は1件もない。
SNSにも、特に書きたい言葉が浮かばない。
こういう夜は、書くよりも終わらせた方がいい。
目を閉じて、天井の常夜灯も見えなくする。
窓の外で、遠くの電車の音が少しだけ聞こえた。
最終かもしれないし、始発の送り込みかもしれない。
どっちでも、僕の1日には関係がなかった。
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